512 慣れとは恐ろしい

先日、同じパリの5区の中で引っ越しをしました。

引っ越しに際してはいろいろな手続きが必要になりますが、その1つに電話会社への連絡があります。
我が家の場合には電話の他に、インターネットへの接続も電話会社のサービスを利用していますので、その両方を移設してもらうことになります。

引っ越しを間近に控えた金曜日の朝、近所にある電話会社の営業所に出かけました。
そして翌週の月曜日に、同じパリの5区の中で引っ越しをしたい旨、伝えました。

受け付けてくださったのは中年男性のAさん。
ハイ、ハイ、分かりましたと手続きは進み…

「引っ越し当日には無理かもしれませんが、いままでと同じ電話番号のままで、2~3日のうちにはお使いいただけるようになると思います」

…とのお返事。

ところが、引っ越して1週間経っても、電話は使えるようになりません。
実は、過去の経験から「事はそんなに上手く進まない…」と予想していたので、正直「やっぱり…」という気持ちでした。

翌日、所用で外出した際に、電話会社の営業所に立ち寄ってみることに。
先日とは別の中年男性のBさんが対応してくださり、引っ越しの手続きは確かに受け付けていること、ただ電話回線の切り替え工事が遅れているだけとのこと、説明がありました。
そして…

「明日にはお使いいただけるようになるのではないでしょうか」

…とのお返事も。

ところが、それからさらに1週間が経っても、電話は使えるようになりません。
しかし、多少の腹立たしさはあっても、怒りという程の感情は湧いてきません。

なお、これが日本なら、とうに怒っていたことでしょう…。
しかし慣れとは恐ろしいもので、この国に住んで数年、これくらいのことでは驚かない(愚痴は言っても怒らない)自分がいます。

翌日、再び電話会社の営業所を訪ねることに。
今度は若い男性のCさんが対応してくださったのですが、電話回線が繋がらない理由も、また、いつになったら繋がるのかも、ここでは分からないとのこと。
さらに…

「それについてはお客様サービスセンターに電話をして聞いてください」

…とのお返事でした。

それを聞き、怒りたい気持ちを抑えながらいままでの経緯を話すとともに、1つの会社でありながらその理由が分からないとはどういうことかと訊ねたり、さらに、お客様サービスセンターに電話をしたくてもその電話が使えないこと、携帯電話は持っていないことを伝えると、彼がお客様サービスセンターに電話をしてくれました。

そして、電話を終えて彼曰く、繋がらない理由は、ただ電話回線の切り替え工事が遅れているだけとのこと。
また、2週間くらい待ってもらうことは良くあることで、中には1か月以上もお待ちいただいた場合もありますとのお返事…。
さらに…

「恐らくもう数日、遅くとも来週には繋がるものと思います」

…とのことでしたが、それがいつなのかは約束できないとのお返事でした。

そして、その返事に僕が不服そうな顔をしていると…

「自分がやるべきベストは尽くしました」

…と言って、その場から立ち去ってしまったのです。

なおこの一件で、誰一人としてお詫びの言葉を口にした人はいません。
良い悪いは別にして、これがこの国で、現在でも行われているやり取りです。
私達日本人の感覚からすれば驚いてしまうと思いますが、僕はこの国でこんな経験をする度に、それだけ日本という国や、日本の人々が素晴らしいのだと、いつも思います。

ちなみに、電話会社の営業所を3回訪ねた翌日の朝、無事に(?)電話回線が繋がり、その日の午後にはインターネットも使えるようになりました。

そして、昨日「自分がやるべきベストは尽くしました」と言った彼の顔を思い出し、「何だ、やれば出来るじゃん!」と、ちょっと嬉しく思ったのでした。