010 ルノワールのセーヌ河3/3 テラスにて

Copyright:坂田 正次

やさしい穏やかな表情がかもしだす幸福感。
そんな表現で説明ができそうな気がするルノワールの「テラスにて」です。
描かれているテラスは、ルノワールが足繁くかよったレストランのラ メゾン フルネーズの2階にあるものです。

絵の場所は、パリから現在は高速地下鉄のRER線が通っているセーヌ河の中の島を持つシャトゥー(Chatou)の中の島で、現在の地図に表記されているIle des Impressionnistes(印象派たちの島)の文字の少し上の鉄道線路の北に位置しています。
ラ メゾン フルネーズはレストラン経営から一族が手を引いた後、シャトゥー市が引き取りレストランと小さな美術館を合わせた恰好の施設として蘇らせています。
現在でもルノワールの訪れたフルネーズとほぼ変わらないレストランが存在しています。

食事をごちそうするからモデルになってとルノワールから言われて、この絵のモデルになった2人姉妹の姉の方の可愛らしい女性は、女優の玉子のジャンヌ ダルローです。
数年後、コメディー フランセーズやジムナーズ座などに出演して人気女優になります。
テラスでポーズする姉妹はあたたかな光に包まれ、明確な色調による表現からはルノワールが優れた色感の持ち主であったことを再認識できます。
ふり注ぐ陽の光と木立のゆらぎ、背景のセーヌに浮かぶボートも光の中をゆくように感じられます。

この時代の流行は、休日ともなりますと、ムーラン ドゥ ラ ギャレットなどのダンスホールに踊りにいったり、郊外の自然の中に繰り出して楽しむのが常でした。
特に人気が高かったのはセーヌ河畔の行楽地だったのです。

アルジャントゥイユから約5キロ下流のシャトゥーは、パリからの鉄道が開通してからは、舟遊びで知られる場所として、飲食店やダンスホールが増えて行っていますが、ルノワール達が制作していた頃、まだまだ心地よい自然の風景を楽しめるところでした。
セーヌ河はシャトゥーの中州により2本の川筋に分かれ、一方は水上輸送路に、もう片方はヨットやカヌーなどの行楽に利用されました。
ルノワールはシャトゥーとその周辺で15点ほどの絵画を制作しています。

人物画の多いルノワールですが、初期の作品を追って行きますと、ルノワールもまた印象派の画家としてセーヌ河とともに成長して行ったと見ることができるでしょう。

テラスにて ルノワール
テラスにて ルノワール