486 旅先にて

いま僕は、フランスのディジョン(Dijon)の町にある、小さなサロン ド テ(salon de the:喫茶店)でこの便りを書いています。
ノートルダム寺院の裏にある、メゾン ミリエール(Maison Milliere)というお店です。

ところで、僕が今、この町にいる理由ですが、ひと言でいえば出張です。
昨日、今日と、フランスのブルゴーニュ(Bourgogne)地方にある、ワインの蔵元をいくつか訪ねてきました。

そしてつい先ほど、すべての予定を終えて、ここディジョンの町まで戻って来ました。
その後、家族へのささやかなお土産を買い、今、このサロン ド テで一息ついているところです。

なお、ワインについてのお話は別の機会にさせていただくとして、今日は出張についてお話したいと思います。

実は、今回の出張は、僕にとって初めてのフランス一人旅。
いつもなら、相方(水野)や凪さんが一緒にいてくれましたので、一人でTGV(フランスの新幹線)に乗ることも、一人でホテルに泊まることも、一人でレストランで食事をすることも、今回が初めてでした。

しかし、実際に出かけてみると、特に戸惑うこともなく、無事に旅することができました。
唯一、嫌だったのはレストランでの食事。
やはり、一人でいただく食事は、何を食べても(どんなに美味しいお料理でも)味気ないものです…。

また、今回は出張であるということから、TGVに乗っている間やホテルの部屋で静かに過ごしている時に、自分が日本にいて会社員であった頃に経験した出張を、懐かしく思い出したりしていました。

ちなみに僕にとっての初めての出張は、まだ社会人になったばかりの頃。
当時勤めていた会社の東京本社から大阪支社への出張でした。
今になって思えば何も大したことはしていないのですが、「必ず、この出張を成功させるぞ!」などと、とても気が張っていたように思います(笑)。

また、初めての海外出張は、シンガポールでした。
夜遅くにチャンギ国際空港に到着した時の、南国特有のあの蒸し暑い空気が今も忘れられません。
しかしこの時も、あまり大したことはしていないのですが、何だか自分が世界を股に駆けるビジネスマンにでもなったかのような勢いだったように思います(恥)。

ところが今回は、何だかとてもリラックスした気分。
これが本当に出張と言えるのか? という感じです。
なにせ、自分の好きなこと、興味のあることを、より深く知るために出かけるのですから。

ちなみに僕は、日本有数の酒処、越後新潟の生まれで育ちですが、今の僕の状況を、フランスと日本とを入れ替えて想像してみたら(日本に住むフランス人に例えてみたら)…

日本で起業し、商売を営んでいるフランス人が、「日本酒が好きだから」という理由だけである日新幹線に乗り、出張と称してお酒の産地に出かけるようなもの。

そして、日本語もよく解らないままに蔵元を訪ね歩いたり、田んぼや稲の様子を見せてもらったり、お天気や農作業のことなどについてあれこれ聞いて廻ったり…という感じ。
その光景を想像すれば、ちょっと滑稽な気もします。

なお今回の出張が、本当に仕事に結びつけば良いのですが(どうなりますことやら…)。