006 アルジャントゥイユの鉄橋

Copyright:坂田 正次

1827年、フランスで初めての鉄道が誕生しました。
そこで使われた蒸気機関車は英国に比べても高性能で、デザイン的にも優れたものがつくられました。
鉄道は当時の最先端技術を象徴していたのです。

フランスの初期の鉄道は路線ごとに違う会社が運営していました。
それをナポレオン3世が1851年から数年をかけて6つの会社に統合させ、さらに、それがフランス国鉄のSNCFに統一されたという経緯があります。
パリの北駅、東駅、リヨン駅(2社の出発駅)、サン ラザール駅、オルレアン駅(現在のオルセー美術館)がその6つの鉄道会社の出発駅の名残を残しています。

駅に関連したジョークを1つ紹介しますと、私が南仏からの帰りによく利用する定宿のあるパリ リヨン駅前で、キャッチセールスみたいな黒人がエクセキューゼモワと声をかけてきたとき、相手をするのもめんどうなので「ワキャンナイ」とふざけて言ってやったらその大男、私が通り過ぎる後ろの方でやけくそぎみに太い声で「ワキャンナイ」と口まねし、「アイキャンナイ」、「アイキャンナッツ」、「I cannot」と続けました。
なんとなく通じたようです。

モネとルノワールの「アルジャントゥイユの鉄橋」を渡る鉄道はサン ラザール(Saint Lazare)駅から出発する西部鉄道会社で、黒の車体に金色のラインが引かれていました。
当時の最先端技術による鉄道に乗ってパリからブルジョアたちが、週末になると別荘のあるセーヌ河べりのアルジャントゥイユへやって来ていました。
パリから鉄道で15分のそこには古典主義をうち破る絵画づくりを夢見ていたモネが家を借りて住み、仲良しのルノワールと一緒に鉄橋の風景などをキャンバスに写し取りました。

同じ風景でも両者にはタッチの違いを見せ、その違いは後の、きらめきあるいは煙るような、光あふれる風景を描くモネを象徴し、もう片方の絵は、柔らかなタッチと色彩によって、豊かな人物を描くルノワールの手法を表しています。
この競合する事のない画法が2人の画家を友人として永くつきあわせたのです。
第1回印象派展が開かれる直前に描かれた2つの絵からは、いろんなことが読みとれるようです。

2人の若い画家が描いたセーヌの流れを横切る鉄橋と機関車。
それは、新たな絵画誕生の兆しを予感させるものでした。
パリに来たら少し時間をとって、印象派誕生前夜に印象派の巨匠となる2人が描写したアルジャントイユに、サン ラザール駅から行ってみるのもよろしいのではないでしょうか。

アルジャントゥイユの鉄橋 モネ
アルジャントゥイユの鉄橋 モネ

アルジャントゥイユの鉄橋 ルノワール
アルジャントゥイユの鉄橋 ルノワール